終わりのベルが鳴った。
会場の音が戻ってきた。それまで聞こえていなかった観客の声、床を踏む音、審判の笛の残響。ずっと無音だったわけじゃない。試合中も音はあったはずだ。でも集中しているとき、人は音を聞かない。終わった瞬間に、世界の音量が急にMAXに戻る。
息が切れていた。膝をついた。
勝ったのか。負けたのか。
正直、最初はわからなかった。
数字のことは後回しにしろ
ガリョウが来た。肩を叩かれた。痛かったけど、その痛さが現実に引き戻してくれた。
やったな。
……勝ちましたか?
ああ。でも今はそれより先に確認することがある。やりきったか。
クロワが静かに近づいてきた。手帳を持っていたが、今回は最初から開かなかった。
試合の結果は記録する。でも一番価値のある問いはこうだ。「今日の自分は昨日の自分より何を学んだか。」勝ち負けは文脈に過ぎない。
……怖かったけど、止まりませんでした。途中でやめたくなった瞬間があって、でもやめなかった。
それが全部だ。
一番しんどい時間
控室に戻って、3匹は黙って水を飲んだ。ガリョウはいつもより口数が少なかった。それが、かえって落ち着きを与えてくれた。
試合の中でな、一番しんどい時間がある。それを越えた先に、答えがある。
……一番しんどい時間、ありました。動きが重くなって、頭が「もういい」って言い始めた。
で、どうした。
動き続けました。考えるのをやめて、体に任せました。
ガリョウが静かに頷いた。
それは「ゾーン」に近い状態だ。意識のノイズを切り離して、学習した動作だけが残る。数千回の練習の意味は、そのためにある。
難しく言うな。要するに、練習が体を動かした。
……まあ、概ね。
次の試合の話
翌日の朝、ガリョウが言った。
次はどこに出る。
……まだ考えてなかったです。
昨日のうちに考えとけ。勝った夜は次の試合のことを考える。負けた夜もそうだ。感傷は二日以上つきあうな。
クロワが手帳を開いた。今度はちゃんと何かを書いていた。
9月に大きな大会がある。出るなら今から準備を始めるべきだ。間に合う計算はある。
9月……世界の舞台ですか。
そうだ。勝ちたいなら、今日から逆算して動く。今日の試合で何が足りなかったか、そこから始まる。
窓の外で鳥が鳴いた。朝の光が差し込んできた。昨日の試合が昨日になって、今日が今日として始まった。
その夜、ノビはノートにこう書いた──
終わりのベルが鳴った後に気づくことがある。 結果は一つの答えで、問いはもっとたくさんある。 一番大事な問いは「次にどうするか」だ。