怪獣たちの足元で、明日を考える。
第33話 Strength

あと90日 ―― 世界選手権への逆算

Gō Shiomi Gō Shiomi
あと90日 ―― 世界選手権への逆算

「あと90日だ」とクロワが言った。

練習が終わった後、宿の食卓に地図と手帳とスプレッドシートを広げて、クロワは数字を並べていた。島の夜は早く来る。窓の外はもう暗かったが、テーブルの上だけ明るかった。

🐉 クロワ

世界選手権まで90日。週5回の練習を続けると、残り約65セッション。試合に必要な要素を12に分解して、各要素に5〜8セッション割り当てると……ちょうど収まる。

🦖 ガリョウ

計画通りいくと思ってるのか。

🐉 クロワ

もちろん思っていない。ただ計画がないと、思考が散漫になる。地図と現実は違う。でも地図がないと迷子になる。

ガリョウがスプレッドシートを覗き込んだ。興味がないわけではないことはわかった。


何を削るかを決める

クロワが12の要素を読み上げた。体力、技術の精度、スピード、体重管理、メンタルの安定、相手のパターン分析……

🦖 ガリョウ

12はやりすぎだ。3つにしろ。

🐉 クロワ

3つでは不完全だ。試合は複合的だ。

🦖 ガリョウ

複合的でも、一度に意識できるのは3つまでだ。全部やろうとして全部中途半端になる、それが一番まずい。

クロワが黙った。珍しかった。

🐉 クロワ

……もう少し具体的に言え。

🦖 ガリョウ

世界で勝ちたいなら、世界で通じる3つだけに集中しろ。残り9つは「悪くない」で十分だ。

僕は考えた。自分の3つ。弱点を潰すのか、強みを磨くのか。

🦕 ノビ

私は……強みを伸ばした方がいいですか、弱点を直した方がいいですか。

🐉 クロワ

データによれば、弱点の改善は大きな伸びが見込めるが時間がかかる。強みの強化は即効性がある代わりに、他のリソースを圧迫する。残り90日という時間軸では——

🦖 ガリョウ

強みだ。世界に出て弱点でも戦おうとするやつは、世界に叩きのめされる。自分が一番得意なことで、世界の誰かに当たれるかどうかを試す。

テーブルを囲んでスプレッドシートを見る3匹
全部やろうとして全部中途半端になる。それが一番まずい。

計画は船の地図だ

翌朝、練習に向かう道でガリョウが言った。

🦖 ガリョウ

計画は船の地図で、嵐は計画外だ。

🦕 ノビ

……嵐が来たら?

🦖 ガリョウ

来る。必ず来る。ケガ、体調不良、やる気がゼロになる日、予想外の相手。それも全部込みで準備というものだ。

🐉 クロワ

その通りだ。だから計画には「バッファ」が必要だ。詰め込みすぎた計画は、最初のズレで崩壊する。私のスプレッドシートにも意図的に余白を入れてある。

🦖 ガリョウ

珍しくクロワのやることに同意した。

🐉 クロワ

……私は常に正しい。

草が朝の露を含んでいた。足元が濡れた。練習場が近づいてくると、体が自然に動く準備を始めるのがわかった。


90日の意味

僕は練習しながら考えていた。90日で何が変わるのか。

技術は急に跳ね上がらない。体力も一朝一夕では変わらない。でも、90日続けた先には、必ず昨日と違う自分がいる。クロワが「複利」という言葉を使っていたのを思い出した。毎日1%の改善が90日続くと、元の2.4倍になる。そんな単純な話じゃないのはわかっているけれど、毎日続けることの意味はそういうことだ。

🦕 ノビ

90日後に世界が待っている。怖いですね。

🦖 ガリョウ

怖くない日は来ないぞ。慣れる、というのは嘘だ。でかい舞台に出るたびに、新しい怖さが来る。

🦕 ノビ

でも出るんですね。

🦖 ガリョウ

だから強くなれる。

練習が始まった。汗が出た。筋肉が動いた。頭が静かになった。

90日というのは長いようで短い。でも今日の練習が終われば89日だ。一日一日を繰り返すだけで、世界選手権の朝が来る。

早朝の練習場で向かい合う3匹
怖くない日は来ない。だから、出るたびに強くなれる。

その夜、ノビはノートにこう書いた──

あと90日。毎日続けると、89日になる。 そうやって今日を全力にするだけで、世界選手権の朝は来る。 準備は未来を管理することじゃなく、今日を全力にすることだ。

世界選手権 · 準備 · 逆算

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