怪獣たちの足元で、明日を考える。
第34話 Strength

道場に帰る ―― チャンピオンの最初の一本

Gō Shiomi Gō Shiomi
道場に帰る ―― チャンピオンの最初の一本

帰国した翌日、ノビは道場に向かった。

羽田に着いたのは深夜だった。荷物をほどいて、シャワーを浴びて、眠って、目が覚めたら道場のことを考えていた。

行かなければならない理由はなかった。でも、行かない理由もなかった。

靴を履いて、外に出た。


道場の扉を開けると、タタミの匂いがした。汗と革の、あの匂い。ロングビーチでも同じ匂いがしたが、ここのものとは微妙に違った。

タカが準備運動をしていた。顔を上げて、一瞬止まった。

🦕 ノビ

ただいま戻りました。

🐉 クロワ

(タカの声)おかえり。世界チャンピオン。

少し笑いながら言った。ノビも笑った。

道場の扉を開けるノビ、タタミと仲間たちが迎える
帰ってきた場所は、変わっていた。いや、自分が変わっていた。

変わったのは何か

練習が始まった。ウォームアップ、打ち込み、そしてスパーリング。

最初の一本は、タカとだった。

組んだ瞬間、何かが違うとわかった。タカが変わったわけではなかった。タタミが変わったわけでもなかった。

視野が広かった。

どこから崩せるか、どこに空間があるか。見える範囲が、出発前と違った。

🦕 ノビ

(心の中で)……あ。

気がついたら試合が終わっていた。タカが言った。

🐉 クロワ

(タカの声)なんか、全然つかまえられなかった。別人みたいだった。


ガリョウが待っていた

ガリョウが道場の隅に座っていた。帰国していたとは聞いていなかった。

🦖 ガリョウ

遅かった。

🦕 ノビ

……昨日、深夜に着いたので。

🦖 ガリョウ

それで正しい。帰ったらすぐ道場に来る。それがわかっているなら、お前は続けられる。

ガリョウは立ち上がって、タタミに上がった。

🦖 ガリョウ

もう一本やれ。今度は俺と。

🦕 ノビ

……チャンピオンになっても、ガリョウさんには敵わない気がします。

🦖 ガリョウ

当たり前だ。だから面白い。

ガリョウとノビが向かい合う道場のタタミ
チャンピオンになっても、まだ勝てない相手がいる。それがいい。

クロワのデータ

練習後、クロワがデータを出した。

🐉 クロワ

世界選手権での君の動きを分析した。大会前と比べて、判断速度が約17%向上している。ポジション変換の精度も上がっている。具体的には――

🦕 ノビ

……クロワさん、今日の帰国初日に分析ですか。

🐉 クロワ

問題あるか。データは感情に左右されない。今が分析の最適タイミングだ。大会直後のパフォーマンスを基準点にしておかないと、退化した時に気づけない。

🦖 ガリョウ

聞いておけ。退化は静かに来る。

ノビはノートを取り出した。


チャンピオンの最初の一本

帰りの道、空が広かった。

ロングビーチで見た夜の海を思い出した。太平洋の向こう側にここがあって、ここから出発してあそこへ行って、また戻ってきた。

タタミは変わっていなかった。でも自分は変わっていた。それがわかったのは、最初のスパーリングだった。

🦕 ノビ

(独り言)続きがある、か。

ガリョウが帰り際に言っていた言葉を思い出した。

「次の山を探せ。頂上にいると思ったら、もう下り始めている。」

道場には、まだ上がいる。 タタミに立ち続ける限り、まだ続きがある。

それがよかった。

夕暮れの道を歩くノビ、背中に道場の灯り
チャンピオンになっても、タタミに戻る理由は変わらない。

その夜、ノビはノートにこう書いた──

道場に帰った。タタミの匂い、変わっていなかった。 でもタカが言った「別人みたいだった」という言葉が残っている。 世界一になったことよりも、最初の一本で何かが変わっていたことの方が、うれしかった。

帰国 · 道場 · 再出発 · チャンピオン

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