「体重は?」とガリョウが聞いた。
朝の練習前、僕は体重計に乗った。数字が出た。試合のカテゴリより2キロ重かった。
想定内か。
……微妙なところです。
正直に言え。想定内か、想定外か。
……想定外でした。もう少し軽いと思っていました。
ガリョウは何も言わなかった。ただ体重計を見ていた。
数字は嘘をつかない
その夜、クロワが表を持ってきた。
90日で2キロ落とすのは難しくない。1週間に約150グラム。日々の食事と水分をコントロールすれば、技術的には可能だ。
難しくない、という言い方をするんですね。
数字の上では、という意味だ。人間の体は数字通りには動かないことも知っている。ただ、数字を無視して感覚だけでやるのは、もっと難しい。
クロワは続けた。
数字は嘘をつかない。嘘をつくのは、数字を見る側だ。
体への嘘
翌日、ガリョウが言った。
一つだけ言っておく。体に嘘をつくな。
嘘、というのは?
無理な水抜き、食べなさすぎ、寝なさすぎ。短期間で数字を合わせようとして、体の限界を超えることだ。
医学的には、急激な脱水は筋肉のパフォーマンスを最大30%低下させる。体重だけ落として試合に臨んでも、本来の力が出ない。
試合で使いたいのは、軽くなった体か、強い体か。どちらかを選べ。
僕は少し考えた。当たり前のことのように聞こえるが、試合前に体重を気にすると、人はおかしな方向に動く。水を飲まない。飯を食わない。体が悲鳴を上げているのに、数字を見て安心しようとする。
……強い体を選びます。
それでいい。
正直な現在地
体重管理を始めて一週間が経った。食事を見直した。水の量を記録した。朝と夜に体重計に乗った。
数字が少しずつ動いた。
予測範囲内だ。このペースを維持すれば、試合3日前に目標体重に到達できる。
3日前に合わせると……試合本番は少し戻りますね。
その通りだ。計量後に適切に栄養を補給すれば、体は戻る。戦略的な体重管理とはそういうものだ。
ガリョウが窓の外を見ながら言った。
体重計が一番正直だ。練習がどれだけできているか、食事がどうか、回復できているか、全部数字に出る。
……怖いですね、それは。
怖いと思う間は、まだ正直に向き合えていない証拠だ。正直に向き合うと、怖くなくなる。ただの情報になる。
僕は体重計の数字を見直した。2キロという差は、大きくもあり、小さくもあった。でも今日の自分の正直な現在地だ。ここから始まる。
その日の夜、ノビはノートにこう書いた──
体重は正直だ。嘘をつかない。 今日の数字は、今日の自分の現在地。 ここから始めるしかない。それでいい。