怪獣たちの足元で、明日を考える。
第38話 Strength

世界の前の最後のスパー

Gō Shiomi Gō Shiomi
世界の前の最後のスパー

世界選手権まで、あと8週間を切った。

今日は「最後の本格スパーリング」と道場の誰かが言っていた。正確には、本番に向けてピークを落とし始める前の、最後の高強度練習だ。

🦖 ガリョウ

今日は全部出しきれ。

🦕 ノビ

……全部、ですか?

🦖 ガリョウ

力も技も恐れも全部だ。出しきったものは、出しきった後の自分が整理できる。出しきれなかったものは、試合でそのまま出る。


出しきることの意味

クロワが事前に言っていた。

🐉 クロワ

スポーツ科学的には、ピークアウトの1週間前に最も強い刺激を入れることで、その後のテーパリングが効果的になる。今日の練習はその「最終強刺激日」だ。

🦕 ノビ

つまり、今日は消耗していい。

🐉 クロワ

消耗ではなく、刺激だ。消耗は回復しない。刺激は超回復を促す。その差は、出し方ではなく、何を出すかで決まる。

技術を試す。判断を試す。圧力の下での選択を試す。それが「刺激」だ。

最後のスパーリングに向かう3匹
今日出しきれ。それが最後の仕事だ。

恐れを出す

5本のスパーリングが終わった。汗が止まらない。呼吸が戻るまでの時間が、先月より少し短くなっていた。

🦕 ノビ

……今日、恐れが出てきました。

🦖 ガリョウ

どんな恐れだ。

🦕 ノビ

「このまま負けるんじゃないか」という感覚です。強い相手に組んだとき、一瞬、体が固まった。

🦖 ガリョウ

それが出たのはいいことだ。

🦕 ノビ

……いいことなんですか?

🦖 ガリョウ

恐れが出ない練習は、恐れを隠しているだけだ。今日出たなら、今日整理できる。試合で初めて出たら、整理する時間がない。


整理する

練習後、ガリョウが言った。

🦖 ガリョウ

体が固まったとき、何を思っていた。

🦕 ノビ

……「勝てないかもしれない」という考えが来ました。

🦖 ガリョウ

次はどうする。

🦕 ノビ

……「考えない」ようにする、ではダメですか?

🦖 ガリョウ

ダメだ。考えないようにするのは、押さえ込むことだ。押さえ込んだものは必ず戻ってくる。

🦕 ノビ

では、どうすれば。

🦖 ガリョウ

「来た」と気づくだけでいい。「あ、恐れが来た」と。それだけで、体の固まりが少し緩む。整理とは、戦うことじゃなく、認めることだ。

練習後に話す2匹
恐れを認めることが、恐れとの戦いの始まりだ。

その夜、ノビはノートにこう書いた──

全部出しきった。 恐れも出た。整理もした。 世界の前の最後の仕事は、終わった。

世界選手権 · スパーリング · 準備

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