出発まで3週間を切った。
荷造りを始めた。キャリーケースを開けて、まず道着を2着入れる。試合用と練習用。念のため、もう1着持っていくかどうかを考えた。
試合だけなら2着で十分だ。3着目は荷物になるだけで、使わない確率が高い。持ち物に保険をかける人間は、練習にも保険をかける傾向がある。
……意地悪な言い方ですね。
事実だ。「もしもの時のために」という思考は、「うまくいかないかもしれない」という前提から来ている。荷物の量に、メンタルが出る。
何を持っていくか
ガリョウが道場で聞いた。
何を持っていく。
道着、サプリ、テーピング、圧縮袋……あとは普段の生活グッズで。
技術は?
……体に入ってます。
覚悟は?
……今、準備してます。
荷物の中で、一番重いのはそれだ。
軽くする方法
クロワが言った。
遠征の荷物を軽くする唯一の方法は、持っていかないことだ。
当たり前ですね。
でも実践できない人が多い。なぜか。持っていかないことへの不安があるから。その不安の正体は何かというと、「自分が不十分だという感覚」だ。道具で補おうとする。
道具は補えないんですか?
道具は条件を整えるだけだ。条件が整っていれば、あとは自分次第。逆に言えば、条件さえ整えば最低限でいい。
道着2着、テーピング2ロール、プロテイン小分け4日分、ビタミン。それだけにした。
覚悟という荷物
出発前夜、ガリョウが言った。
覚悟は重いか。
……最初は重かったです。でも今は、少し軽い気がします。
なぜ軽くなった。
「勝たなければ」から、「やることをやる」に変わったからだと思います。
それが正しい荷物の持ち方だ。覚悟は目的ではなく、手段だ。「覚悟する」のではなく、「覚悟を道具として使う」。
その夜、ノビはノートにこう書いた──
荷物は軽くした。 覚悟も、少し軽くなった。 重いものを全部置いていく必要はない。 手放せるものだけ、手放す。 それで十分だ。