怪獣たちの足元で、明日を考える。
第2話 Strength

折れない足腰の話 ―― ガリョウの筋トレ哲学

Gō Shiomi Gō Shiomi
折れない足腰の話 ―― ガリョウの筋トレ哲学

朝焼けが空を切り裂くより先に、地面が揺れ始める。

ガリョウが、スクワットをしている。まだ星が残っている時間。ガリョウはもう100回を終えていた。

一日のうち最低3時間。彼に言わせれば「立てなくなったら終わり」らしい。背中に巨石を3つ乗せ、地面が足型にへこむまで繰り返す。それだけのことを、何十年も続けている。

台風が来ても、地震が起きても、ガリョウだけは立っていた。文字通り、一度も倒れなかった。その事実が、あらゆる言葉より雄弁だった。


溶岩の斜面にて

ノビがガリョウの稽古に初めて同行した日のことだ。

場所が悪い。溶岩で足場が崩れやすい斜面。わざわざそんな場所を選んでいるのだ。ガリョウに言わせれば、「安定した場所でしか立てない奴は、不安定な場所で必ず倒れる」。

そんな場所で、恐ろしくゆっくりと腰を落とす。限界まで沈み込んで、そこで3秒止まる。ガリョウの足元の溶岩に、蜘蛛の巣のようなひびが入っていく。

🦖 ガリョウ

足腰だ。全ての基本は足腰だ。頭がどれだけ良くても、立てなければ意味がない。

🦕 ノビ

でも、ガリョウさんはもう十分強いじゃないですか。なんで毎日やるんですか?

🦖 ガリョウ

強いから続けるんじゃない。続けてるから強いんだ。順番を間違えるな。

ノビはノートにその言葉を書き留めた。「順番を間違えるな」。たった8文字が、ページの真ん中でやけに重く見えた。

朝焼けの中、溶岩の斜面でスクワットするガリョウのシルエット
ガリョウの朝は、誰よりも早い。

嵐の中で立つ者

旅を始めて10日目の夜。嵐が来た。

山を越えようとしていた僕らを、暴風雨が真正面から叩いた。クロワは岩陰に退避して風の弱まる時間を計算していた。ノビは地面にしがみついて飛ばされないようにするのが精一杯だった。

ガリョウだけが、立っていた。

両足を肩幅に開き、重心を落とし、風を体で受け止めている。雷が山を照らすたびに、ガリョウのシルエットが浮かび上がった。山のように、動かない。

🐉 クロワ

体幹の安定性が認知機能の持続性に影響するという研究データがある。Gの言うことは、案外科学的に正しい。ただし、この暴風の中で立ち続ける合理的な理由は見当たらない。

🦖 ガリョウ

理由はいらない。立てるなら立つ。それだけだ。

嵐が去った後、ガリョウの足元には深い足跡が残っていた。風圧に耐え続けた数時間で、岩盤が10センチ以上えぐれていた。

ノビはその足跡に自分の足を重ねてみた。ガリョウの片足の中に、ノビの体がすっぽり入るくらいの大きさだった。

嵐の中、微動だにせず立つガリョウと、地面にしがみつくノビ
倒れないこと。それが、ガリョウの全てだった。

階段から始まる革命

数日後の夕方。焚き火を囲んで、ノビはガリョウに聞いた。

🦕 ノビ

ガリョウさんみたいに強くなるには、やっぱり何年もかかりますよね。僕なんか、スクワット10回でもう足がガクガクなんですけど……。

🦖 ガリョウ

10回できるなら、明日は11回やれ。それだけだ。100回できる奴も、最初は1回から始めてる。

🦕 ノビ

……僕はとりあえず、エレベーターじゃなくて階段を使うことから始めます。

🦖 ガリョウ

それでいい。自分の足で登れ。それが最初の一歩だ。

ノビはその日から階段を使うようになった。最初の3日は太ももが痛くて歩くのもつらかった。でも1週間経つ頃には、苦ではなくなっていた。

階段を選ぶという行為そのものが、「自分は楽を選ばない側の生き物だ」という自己認識を少しずつ書き換えていく。大したことじゃない。でも、大したことじゃないものの積み重ねが、たぶん一番大したことなのだ。

翌朝、ノビは自分の意志で起きた。スクワットを10回やった。11回目で膝が笑って倒れた。ガリョウは何も言わなかった。ただ、一瞬だけ足を止めて、こちらを見た。

ノビはその夜、ノートに書いた。「ガリョウさんが強いのは、強いからじゃない。続けているからだ。順番を間違えるな。」

焚き火のそばでノートに書くノビと、黙って空を見上げるガリョウ
「順番を間違えるな。」その言葉を、僕は忘れない。

その夜、ノビはノートにこう書いた──

ガリョウさんの足跡は、僕の体がすっぽり入るくらい大きかった。あの足跡を作ったのは才能じゃない。朝が来るたびに、立ち続けた跡だ。

筋トレ · メンタル · ガリョウ

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