怪獣たちの足元で、明日を考える。
第1話 Fun

3匹が出会った日 ―― 始まりの記録

Gō Shiomi Gō Shiomi
3匹が出会った日 ―― 始まりの記録

その日の空は、やけに低かった。

ノビは南の草原をひとりで歩いていた。特に目的はない。昨日までいた群れとは、なんとなく合わなくて離れた。あの輪の中にいると息が詰まった。笑い声が遠くに聞こえて、自分だけ水の底にいるような感覚。それが嫌で、ある朝ふらりと歩き出した。

背中の荷物は軽い。ノート1冊と、ペンと、水筒。明日どこへ行くかも決まっていない。

異変に気づいたのは、地面が揺れたからだ。ドン、ドン、ドン。何かが歩いている。しかも、とてつもなく大きな何かが。


山腹の巨影

丘を越えたとき、ノビは立ち止まった。

山の中腹に、巨大な影があった。ゴツゴツした岩肌のような鱗。火山の玄武岩をそのまま身にまとったような、暗い赤褐色の体表。その怪獣は――山を相手にスクワットをしていた。山の岩壁に背中を押し付け、信じられない重量を足腰だけで支えている。

🦖 ガリョウ

……498。……499。……500。

500回。ノビが見つけた時点で、もう500回だった。しかも、それが「ウォームアップ」だということを、この後すぐに知ることになる。

別の方角から低い振動が伝わってきた。川の向こう岸に、もう1匹いた。同じくらい巨大だが、印象がまるで違う。滑らかで、青みがかった鱗は深海の氷のように透き通っている。その怪獣は川に橋を架けていた。両岸の岩を正確に削り、力学的に完璧なアーチを組み上げている。誰に頼まれたわけでもない。ただ、「ここに橋があるべきだ」と判断したから架けている。

🐉 クロワ

支点の角度を0.3度修正。これで荷重分散が最適化される。美しい。

山腹でスクワットするガリョウと、川に橋を架けるクロワを遠くから見つめるノビ
すべては、この日から始まった。

岩場のやりとり

ガリョウがスクワットの手を止めた。

🦖 ガリョウ

おい、K。また誰も使わない橋を作ってるのか。欠陥はお前の頭だ。

🐉 クロワ

使う使わないは問題ではない。この地形に橋が存在しないこと自体が構造的な欠陥だ。スクワットで解決できる問題は、この世にそう多くない。

ガリョウは鼻を鳴らした。「多い。お前が思ってるより、ずっと多い。」

言葉は噛み合わないのに、呼吸は合っている。互いを否定しながら、互いの存在を前提にしている。不思議な2匹だった。

ノビは岩陰から、この巨大な2匹のやり取りを見ていた。怖かった。どちらも自分の何倍もある。でも不思議と、逃げようとは思わなかった。2匹の間にある空気が、険悪そうに見えて、どこか温かかったからだ。言葉は荒いのに、間合いは近い。

口論しながらも互いの近くにいるガリョウとクロワ
言葉は荒くても、距離は近い。

小石が転がった午後

岩陰から身を乗り出しすぎた。小石を蹴った。カラカラと音が転がって、2匹の巨大な頭がこちらを向いた。

🦕 ノビ

あっ……す、すみません。通りかかっただけで、その、怪しい者じゃないです。僕、ただの……ただの通りすがりです。

🦖 ガリョウ

……小さいな。

🐉 クロワ

体長比でおよそ5分の1。まだ成長期だろう。骨格の発達状況から見て、成体まであと数年か。

ガリョウの目は岩のように硬かったけれど、冷たくはなかった。クロワはノビの体を上から下まで観察すると、すぐに橋の作業に戻った。ノビは存在を否定されたわけではなかった。ただ、まだ何者でもなかったのだ。

🦕 ノビ

あの、お二人はどこへ向かってるんですか?

🦖 ガリョウ

別に決めてない。足が向いた方に歩く。

クロワが横から補足した。「私は地形の構造的特性に基づいて最適な経路を選定している。ガリョウが『足が向いた方』と言っているのは、私が選んだ道を歩いているだけだ。」

ガリョウが「うるさい」と一言だけ返した。

2匹はそのまま歩き出した。西の山脈に向かって進んでいく。その背中が少しずつ小さくなっていく。

ついていこう、と思った。理由は説明できない。ただ、あの2匹の後ろを歩いてみたいと思った。あの背中を追いかけているうちに、自分の足が勝手に遠くまで行ってしまう――そんな予感がした。

ノビは小走りで後を追った。息が切れる。足が痛い。でも止まれなかった。

ガリョウもクロワも、振り返らなかった。でも、歩く速度がほんの少しだけ遅くなった気がした。気のせいかもしれない。でも、気のせいじゃなかったと、僕はずっと信じている。

その夜。焚き火のそばで、ノビは初めてノートを開いた。ガリョウは岩に背中を預けていびきをかいている。クロワは星を見ながら何か計算している。震える手でペンを握った。

「今日、2匹の怪獣に出会った。僕はまだ、なぜ付いていくのかわからない。」

焚き火のそばでノートを開くノビと、眠るガリョウと星を見るクロワ
最初の一行が、すべてを変えた。

その夜、ノビはノートにこう書いた──

焚き火の向こうでクロワさんが星を数えていた。ガリョウさんのいびきが地面を揺らしていた。僕はまだ、この2匹のことを何も知らない。知らないのに、ここにいたいと思った。それだけが今日の全部だった。

出会い · 始まり · 仲間

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