大きな戦いが終わった。
結果は散々だった。敵を取り逃がした。ガリョウの突進は2秒遅れ、クロワの計算は第二波を想定していなかった。僕の伝令は、角を一つ間違えて3分のロス。
3匹は疲れ果てて海沿いの道を歩いていた。誰も話さない。ガリョウの尻尾が地面を引きずっている。クロワは黙って前を見ていた。いつもなら歩きながらでもデータを整理しているのに、今日は手が空だった。
僕は二人の少し後ろを歩きながら、自分の影を踏んでいた。影だけは立派なのに。
夕陽が海面をオレンジに染めていた。波がゆっくりと堤防を叩く音だけが、3匹の沈黙を埋めていた。
堤防の上の沈黙
堤防に辿り着いた。コンクリートはまだ温かかった。
3匹並んで座った。足をぶらぶらさせて、海を見た。西の空がオレンジから赤紫に変わっていく。
ガリョウが黙って拾った流木で魚を焼き始めた。いつ釣ったのかわからない。ガリョウにはそういう謎の調達力がある。
……今日は失敗でしたね。反省点、まとめたほうがいいですか?
だがこの魚はうまい。反省は明日でいい。今は食え。
ガリョウが焼いた魚は外が焦げて中が生焼けだった。いつものことだ。でも不思議と、疲れた体に塩気が沁みた。
黙って食べた。波の音だけが聞こえている。
……波の周期が今日はやけに心地いい。約6秒間隔だ。人の呼吸と同じリズムだな。
え、クロワさんが波の話……? データとか分析とかじゃなくて?
分析しない時間がないと、何を分析すべきかが見えなくなる。これも設計のうちだ。
クロワの口からそんな言葉が出るとは思わなかった。いつも数字と構造の話ばかりしているクロワが、波の周期を「心地いい」と言った。
誰も反省会をしなかった。ただ潮風が吹いて、空がゆっくり暮れていった。最初の星が一つだけ見えた。
3匹の間に言葉はなかったけど、沈黙が重くなかった。今夜の沈黙は、何も考えなくていい沈黙だった。
商店街の甘い匂い
日が暮れてから、帰り道を歩き始めた。誰が先に立ち上がったか覚えていない。自然と、3匹が同時に動いた。
商店街の端に差しかかったとき、甘い匂いが漂ってきた。
たい焼き屋だった。小さな屋台で、おじいさんが一人で焼いている。3つ買った。財布の中身がほとんどなくなったけど、今日はそれでいい。
ガリョウにあんこ、クロワにカスタード、僕はあんこ。クロワの好みがカスタードだということを、この日初めて知った。こういう小さなことが、帰り道にだけ見える。
歩きながら食べた。ガリョウが噛みついた瞬間、「あちっ」と声を上げた。あの、溶岩の近くで平気な顔をしているガリョウが。たい焼きのあんこには勝てなかったらしい。
クロワが小さく笑った。データにも構造にも関係ない、ただの「おかしい」という笑い。僕もつられて笑った。今日初めての笑い声だった。
ガリョウの大きな足音と、クロワの規則的な足音と、僕のやや小走りの足音が、商店街に三拍子のリズムを刻んでいた。
力んだ手が掴めなかったもの
商店街を抜けたあたりで、僕の頭にふと降ってきた。
たい焼きを持ったまま、立ち止まった。
今日の作戦が失敗したのは、敵の動きを読み間違えたからじゃない。僕らが「成功させなきゃ」と力んでいたからだ。作戦会議のとき、ガリョウの拳は固く握られ、クロワのペンは紙に穴を開けるほど強く押し付けられていた。僕のノートの字は、いつもより3倍小さかった。
ノビ。立ち止まるな。たい焼きが冷める。
あ、はい。……ガリョウさん、今日の戦い、悔しくないですか?
悔しい。だが今はたい焼きのほうが大事だ。悔しさは消えない。だから今は食え。
ガリョウは反省しない。反省しないのに、次は同じ失敗をしない。不思議な人だ。
一番大事な気づきは、作戦会議でも反省会でもなく、甘い匂いのする商店街で降ってきた。
家に着いて、ノートを開いた。反省点の一覧を書こうとして、やめた。代わりに一行だけ書いた。たい焼きの甘さがまだ口の中に残っていた。
その夜、ノビはノートにこう書いた──
クロワさんがカスタード派だった。聞いたことがなかった。戦いの最中には見えないものが、帰り道にはたくさん落ちていた。