怪獣たちの足元で、明日を考える。
第3話 Kindness

優しさの構造 ―― クロワの設計思想

Gō Shiomi Gō Shiomi
優しさの構造 ―― クロワの設計思想

クロワは感情を表に出さない。

声のトーンはいつも一定で、表情もほとんど変わらない。冷たいと誤解されることも多いと、後でガリョウが教えてくれた。「あいつは昔からああだ。慣れろ」と。

でも、クロワの行動をよく観察すると、すべてが「誰かを守るための構造」になっていることに気づく。気づくのに時間がかかった。それはクロワの設計が、気づかれないことを前提に作られているからだ。

クロワが通った後の道は必ず歩きやすくなっている。進行方向の危険な岩を事前に砕き、急勾配には段差を刻み、倒木は通行の邪魔にならない位置にずらしてある。ノビが気づいたのは一緒に旅を始めて2週間も経ってからだった。

安全だと思っていた道は、安全に「された」道だった。


見えない迂回路

ある日、ノビはクロワに直接聞いてみた。なぜそんなことをするのか。

🐉 クロワ

感情で動くな。仕組みで守れ。感情は枯れるが、仕組みは残る。

🦕 ノビ

でも、それって冷たく感じる人もいると思うんです。「気持ち」がないって言うか……。

🐉 クロワ

「気持ちがある」ことと「誰かが実際に守られている」ことは別の事象だ。気持ちがあっても仕組みがなければ、守りたい相手は守れない。逆に仕組みがあれば、感情の有無に関係なく保護は機能する。

言い返せなかった。クロワの言葉には、感情の入り込む隙がない。でもその隙のなさが、かえって何かを物語っている気がした。

ガリョウが横から口を挟んだ。

🦖 ガリョウ

……まあ、コイツが街を壊さないように迂回路を作ってくれてるのは知ってる。

🐉 クロワ

知っていたのか。

🦖 ガリョウ

当たり前だ。俺が方向音痴だと思ってるだろうが、何十年も一緒に歩いてれば道が不自然に曲がってることくらいわかる。

クロワは何も言わなかった。ただ、地図に落としていた視線を、ほんの一瞬だけ外した。クロワにとってはあれが照れだったのだと思う。

月明かりの下、先行して道を整えるクロワの後ろ姿
見えない優しさは、設計図の中に隠れている。

風上に眠る理由

一度気づいてしまうと、もう以前のようには見えなかった。

夜、クロワが「先に寝る」と言って離れるとき。実は風上に移動して、ノビたちへの寒風を体で遮っていた。水場を見つけたとき。「このルートが構造的に最適だ」と言いながら、実はノビの足でも渡れる浅瀬を選んでいた。崖沿いの道では、クロワはいつもノビ側を歩いた。

すべてに理由がつけられていた。すべてが「合理的な判断」として説明されていた。でもその合理性の裏に、いつもノビがいた。

🦕 ノビ

クロワの「優しさ」って、目に見えにくいんですよね。でも、確実にそこにある。設計図の中に埋め込まれてる感じ。

🐉 クロワ

私は最適化をしているだけだ。感傷的な解釈は不要である。

🦖 ガリョウ

素直じゃない奴だ。昔からな。

風上に体を横たえるクロワと、その陰で穏やかに眠るノビ
クロワが寝る場所には、いつも理由がある。

設計図の奥にあるもの

ある晩、ガリョウが珍しく昔話をしてくれた。クロワが「地形を確認してくる」と言って離れた後のことだ。

クロワは若い頃、ある街を守れなかったことがあるらしい。敵の攻撃が来ることはわかっていた。でも、避難経路が設計されていなかった。クロワは感情のままに戦って、敵は倒した。でも街は壊れた。逃げ遅れた者がいた。

クロワはその場に立ち尽くしたまま、三日三晩動かなかったという。

それ以来、クロワは変わった。感情で動くことをやめた。すべてを「仕組み」に落とし込むようになった。道を整備するのも、橋を架けるのも、迂回路を作るのも。全部、あの日の失敗から生まれた設計思想だった。

「あいつの冷たさは、鎧みたいなもんだ」とガリョウは言った。「中身は誰よりも熱い。だから鎧がないと、燃え尽きる。」

遠くで、クロワが何かを削る音がした。たぶん、明日通る道の岩を整えているのだろう。誰にも頼まれていないのに。それがクロワの「戦い方」なのだ。

ノビはノートに書いた。

「クロワさんの冷たさは、二度と誰も守れなかった悔しさの裏返しだ。感情を捨てたんじゃない。感情だけじゃ足りないと知ったから、仕組みを選んだ。」

夜の闇の中、黙々と道を整えるクロワのシルエット
誰にも気づかれない優しさが、一番強い。

その夜、ノビはノートにこう書いた──

今夜も風上にクロワさんが寝ている。明日の道も、たぶんもう整えてある。僕が気づいたことは、まだ黙っておく。

設計 · ロジック · クロワ

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