そいつは、僕たちが今まで戦った敵とはまるで違った。
こちらの動きを読み、誘い、罠にかける。ガリョウの突進を岩盤ごと崩して躱し、クロワの包囲陣を内側から瓦解させた。まるで僕たちの戦い方を全部知っているかのように。
戦闘は30分で終わった。守るはずだった街の一角が瓦礫になり、敵は海の向こうへ消えていった。追う力は、もう誰にも残っていなかった。
ガリョウの体にはいくつもの傷。クロワの鱗は割れている。僕は無傷だった。何もできなかったから。それが一番痛かった。
僕たち……負けたんですか。負けたんですよね。守れなかった……。
誰も答えなかった。
砕けた拳と凍る瞳
ガリョウは何も言わなかった。血が滲む拳で崖を殴り始めた。自分の体を壊すことでしか、この怒りを処理できないのだとわかった。
クロワは逆だった。瓦礫の上に座り込み、じっと動かない。氷青の瞳が戦闘のすべてを巻き戻して再計算している。答えの出ない計算を、延々と繰り返している。
僕は怖かった。2匹がバラバラに壊れていくのを見ているのが、敗北そのものより怖かった。
瓦礫の下から、子供の声が聞こえた。「助けて」と言っていた。その声が、僕の足を動かした。
瓦礫を退かす手
僕は崩れた街に向かった。小さな体で瓦礫を退かす。爪が割れた。でも止まれなかった。手を動かしていれば、「もうダメだ」という声も止まるから。
大丈夫ですか……! すぐ出しますから、もう少しだけ待ってくださいね……!
瓦礫の下にいた小さな女の子を引き出した。住民たちを助け出し、水を配り、毛布を集めた。できることは小さかった。でも、「大丈夫ですか」と声をかけることはできる。
僕が応急手当を続けていると、足音が聞こえた。ガリョウが、血を垂らしたまま無言で瓦礫を持ち上げ始めた。殴ることをやめて、守ることを選んだ。同じ手で。
……仮設の避難所を設計した。この地形なら、風を遮る壁をここに置くのが最適だ。明朝までに完成させる。
クロワも来ていた。ノートにはもう戦闘の分析ではなく、今夜を越えるための設計図が描かれていた。
号令はなかった。誰も「やろう」とは言わなかった。ただ、目の前にやるべきことがあったから、手を伸ばした。
敗北は情報である
明け方、仮設の避難所ができあがった。完璧じゃない。でも、子供たちが安心して眠れる。
住民たちが眠り始めた頃、3匹は焚き火のそばに集まっていた。
負けた日に何をするかで、次の勝ちが決まる。
同意する。敗北はデータだ。今日の戦闘ログから、あの敵の行動パターンを17通り抽出した。次は同じ手を食わない。
僕は……何も分析できなかったですけど。ただ、目の前の人を助けることしか。
それが一番先にやることだ。
僕はノートを開いて、今日のことを書き始めた。「負けた」。その二文字から始まる記録は、今まで書いたどのページより重かった。書かなければ、この痛みがただの痛みで終わってしまう。書けば、情報になる。
ガリョウは体を鍛え直す。クロワはデータを分析する。僕はノートに書く。
その夜、ノビはノートにこう書いた──
「負けた」。この二文字をノートに書くとき、手が止まった。でも書いた。書かないと、ただ痛いだけで終わってしまうから。