怪獣たちの足元で、明日を考える。
第5話 Kindness

僕がここにいる理由 ―― 一番小さい歯車

Gō Shiomi Gō Shiomi
僕がここにいる理由 ―― 一番小さい歯車

あの港町の戦いから三日が経った。

ガリョウは黙々と鍛錬を続けている。クロワは次の戦闘に備えて地形データを再構築している。2匹とも、前を向いていた。

ノビだけが、動けなかった。ガリョウのように敵を殴れない。クロワのように戦場を設計できない。路地の奥の住民に気づいたのに、助けられなかった。


焚き火の前の独白

夜。ガリョウもクロワも眠った後、ノビはひとりで火の番をしていた。

🦕 ノビ

僕がいなくても、あの戦いの結果は同じだったと思うんです。いや、むしろ僕がいないほうが、2匹は動きやすかったかもしれない。足手まといって、こういうことを言うんだろうな。

ノートの最後のページには「この群れに必要なのだろうか」と、昨夜書いた文字が涙で滲んでいた。

明日の朝、黙って離れよう。そう決めかけていた。

焚き火の前で膝を抱えてうつむくノビ、背後に眠るガリョウとクロワ
僕は、この群れに必要なのだろうか。

一行のメモ

翌朝。ノビは静かに荷物をまとめていた。

🐉 クロワ

ノビ。あの戦闘の記録を見せろ。

クロワは起きていた。いや、もしかしたらずっと起きていたのかもしれない。

🦕 ノビ

え……記録って、僕のノートですか? 大したこと書いてないですよ。ほとんど走り回ってただけで、あの、本当にメモ程度で――

クロワはノビのノートを受け取ると、一ページも飛ばさず読んだ。数分後、あるページの一箇所を指で示した。

「南側の路地に避難できていない住民3名を確認」。たった一行の走り書きだった。

🐉 クロワ

この住民は、私もガリョウも認識していなかった。我々は敵しか見ていなかった。お前がいなければ、見殺しにしていた可能性がある。それから、お前は戦闘前に水筒を満たして持ってきていた。撤退ルートを2つ確認していた。どれも私が指示したことではない。

🐉 クロワ

お前がいなければ、俺たちは戦場しか見えない。戦うことしかできない巨大な2匹の、目と耳と記憶になれ。

ノビのノートの走り書きを指差すクロワの爪
たった一行が、3人の命を繋いでいた。

一番小さい歯車

ガリョウが横から口を開いた。背中を向けたまま。

🦖 ガリョウ

一番小さい歯車が、一番大きい歯車を回す。お前が止まったら、全部止まる。

🦕 ノビ

……でも、僕は戦えないです。ガリョウさんみたいに殴れないし、クロワさんみたいに設計もできない。僕にできることなんて、走り回って、メモして、水を汲むくらいで……。

🦖 ガリョウ

戦う奴はもう2匹いる。同じものは要らない。

何も言い返せなかった。ガリョウの言葉は、いつも短くて、否定できない。

クロワがノートを返した。最後のページの「この群れに必要なのだろうか」の横に、結晶質の爪で小さく訂正線が引いてあった。何も言わなかった。ただ、その一本の線が、百の言葉より雄弁だった。

ノビはまとめかけた荷物を、静かに解いた。その夜、新しいページにこう書いた。

「まだわからない。でも、もう少しだけ付いていく。」

荷物を解き、焚き火のそばに座り直すノビ
「もう少しだけ」が、居場所になる。

その夜、ノビはノートにこう書いた──

クロワさんが「この群れに必要なのだろうか」の横に線を引いてくれた。何も言わなかった。あの一本の線だけで、今夜は眠れそうだ。

存在意義 · 葛藤 · 居場所

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