怪獣たちの足元で、明日を考える。
第6話 Strength

威張るな。舐められるな。―― ガリョウの二箇条

Gō Shiomi Gō Shiomi
威張るな。舐められるな。―― ガリョウの二箇条

南の岩場に、若い怪獣たちの群れが集まっていた。

20匹ほどのリーダーもルールもない連中で、毎日のように小競り合いが起きていた。強い奴が弱い奴から取り上げ、弱い奴はさらに弱い奴に当たる。負の連鎖が岩場全体を覆い、誰もが疲弊していた。

ノビは遠巻きにその様子を見ていた。かつて自分がいた群れを思い出した。あの居心地の悪さの正体が、今ならわかる。ルールがなかったのだ。誰も線を引かなかったから、空気を読むしかなかった。

見かねたガリョウが、ある朝ぬっと岩場に現れた。あの火山の玄武岩のような鱗、地面を凹ませる足圧。一歩踏み出すだけで岩場が揺れる。昨日まで威勢のよかった連中が、急に小さくなった。


たった2つ

「ルールを決めてくれ」と若い連中が頭を下げた。

ガリョウは腕を組み、しばらく海を見ていた。ノビは隣でノートを開いてペンを構えていた。きっと、たくさんのルールが出てくる。仲間を裏切るな。弱い者をいじめるな。食料は平等に分けろ。

ガリョウが口を開いた。

🦖 ガリョウ

2つだけだ。威張るな。舐められるな。以上。

若い怪獣たちが顔を見合わせている。「それだけ?」という表情だった。ノビも同じ気持ちだった。構えたペンが、2行しか書けずに止まっている。

🦕 ノビ

え、それだけですか? もっとこう、「仲間を裏切るな」とか「飯は分け合え」とか……。

🦖 ガリョウ

ルールが多い群れは弱い。覚えられないルールは、無いのと同じだ。

ガリョウはそれだけ言って、岩の上に座った。背中が「これ以上は自分で考えろ」と言っていた。

若い怪獣たちの前で腕を組むガリョウ、海を背にして
ルールは2つだけ。それ以上は要らない。

矢印の向き

ノビは納得がいかなかった。2つだけで、あの混乱が収まるとは思えない。帰り道で、クロワに意見を求めた。

🐉 クロワ

面白い。「威張るな」は傲慢の抑制、「舐められるな」は自尊心の維持。この2つが守られれば、裏切りも独占も構造的に発生しにくくなる。よくできた設計だ。

🦕 ノビ

でも、「威張るな」と「舐められるな」って矛盾しませんか? 舐められないようにするって、ちょっと威張ることじゃないですか?

🦖 ガリョウ

違う。威張るのは「相手を下に見ること」だ。舐められないのは「自分を安売りしないこと」だ。向いてる方向が違う。

ノビはノートに矢印を2本描いた。下を向く矢印と、足元に踏ん張る矢印。見た目は似ているのに、向きがまったく違う。

ノートに2本の矢印を描くノビ、隣でクロワが腕を組んでいる
外に向かう力と、内に向かう力。見た目は似ている。

数週間後の岩場

数週間後、あの荒れていた岩場を再び訪れると、ノビは目を疑った。

若い怪獣たちは見違えるほど落ち着いていた。威張る奴がいないから序列争いが起きない。舐められないように各自が鍛えるから、群れ全体が強くなる。食料の分配で揉めても、「威張るな」の一言で収まる。弱い者が虐げられそうになっても、「舐められるな」の一言で立ち上がる。

一匹の若い怪獣が言っていた。「毎日『威張ってないか? 舐められてないか?』って自分に聞くようになったら、自然と行動が変わった」と。

🦕 ノビ

ガリョウさん、あの岩場、すごく良くなってましたよ。あの2つのルールだけで。

🦖 ガリョウ

当たり前だ。ルールは少ないほど効く。多い言葉は軽くなる。

あの日ガリョウが岩場を去るとき、振り返りもしなかった。ただ原則を置いて去った。それだけで十分だった。

ノビは自分にも問いかけてみた。「僕は威張っていないか?」小さすぎて威張りようがない。「僕は舐められていないか?」――それは、わからなかった。

穏やかになった岩場で過ごす若い怪獣たち、遠くにガリョウの背中
原則を置いて、あとは任せる。それがガリョウの流儀。

その夜、ノビはノートにこう書いた──

ノートに矢印を2本描いた。下に押す矢印と、踏ん張る矢印。ガリョウさんは2つしか言わなかった。それで十分だった。

リーダーシップ · 原則 · ガリョウ

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