あの喧嘩から1週間が経っていた。ガリョウは北の海岸線に行ったきり帰ってこない。クロワは東の研究拠点にこもっている。2匹がいない縄張りは、驚くほど静かだった。
僕は一人で島の見回りを続けていた。以前はガリョウの後ろを歩くだけでよかった。クロワの指示に従うだけでよかった。今は自分で判断して、自分で歩かなければならない。
3日目に気づいた。僕はいつも2匹の真ん中にいた。ガリョウの行動力とクロワの分析力に挟まれて、自分では何も決めなくてよかった。でも今、その居場所がない。
一人で過ごす7日目の夜。山間の小さな村の方角に、黒い煙が上がった。
前にも後ろにも誰もいない
暗い山道を走った。いつもならガリョウが先に駆けつけ、クロワが高台から指示を出す。僕はその後ろでノートを取る。でも今、前にも後ろにも誰もいない。
村に着くと、山の上から泥水がゆっくり流れ下りていた。地盤が緩んでいる。このまま崩れれば村は土砂に埋まる。さらに村の東側に小型の敵が1体、人家を嗅ぎ回っている。
土砂崩れと敵。2つ同時。僕一人で。
無理だ。絶対に無理だ。僕はガリョウじゃない。クロワでもない。戦えないし、完璧な作戦も立てられない。
足が震えた。逃げたかった。でも、村の家々に明かりが灯っていた。子どもの泣き声が聞こえた。
あの明かりの中に、誰かの夜がある。僕が逃げたら、あの明かりが消える。
ガリョウの言葉が頭を過ぎった。「人が多い方に走る」。その事実が、震えたまま前に踏み出す力をくれた。
ノートが教えてくれたこと
僕はノートを開いた。何ヶ月もかけて書き溜めた、2匹の教えが全部ここにあった。「足が止まるなら、手で進め」――ガリョウの言葉。「パニックは構造で止める。まず全体を見ろ。次に分解しろ。一つずつ潰せ」――クロワの言葉。
まず構造を考えた。問題は2つ。同時にはできない。でも順番をつけることはできる。村の北側の古い用水路を開放すれば、水の流れを変えて土砂の方向をずらせるかもしれない。敵には地形を使う。東側の急斜面に誘導して落とす。力で勝てないなら、この土地の力を借りる。
……やるしかない。完璧じゃなくていい。全員生きて朝を迎えればいい。
ガリョウさんなら走る。クロワさんなら設計する。僕は……僕のやり方で、動く。
村人を起こして回った。声が裏返っていた。格好悪かった。それでも村人たちは動いてくれた。用水路の錆びた水門を体ごとぶつけて開けた。泥の流れが方向を変え、村の手前でほんの少しだけ逸れた。畑が2枚埋まった。家は無事だった。
次は敵。松明を作り、走り回って注意を引いた。斜面の際まで誘い込んで足元の枯れ木を蹴り崩した。敵が足を滑らせ、斜面を転がり落ちていった。
朝日と汁物
全員、生きていた。村人も、僕も。
座り込んだ。全身が泥だらけで、腕の鱗を焦がしていて、爪は欠けて、あちこち擦り傷だらけだった。英雄にはほど遠い。でも朝日が山の稜線から顔を出したとき、おばあさんが温かい汁物を持ってきてくれた。「ありがとうね」と言われた。それだけで、涙が堪えきれなかった。
ガリョウさんの強さがなくても、クロワさんの頭脳がなくても、僕にできることがあった。小さくて、不格好で、ギリギリだったけど。……僕は、一人でも立てた。
ガリョウの「足が止まるなら手で進め」が僕の足を動かし、クロワの「構造で考えろ」が僕の頭を動かした。それでも、村人を起こして回ったのは僕の声だ。水門を開けたのは僕の手だ。
ノートの文字が、本当に必要な夜に、僕を立たせてくれた。
ガリョウさんとクロワさんに早く会いたい。今度は、胸を張って「ただいま」と言える気がする。
泥だらけの足で、宿の板間をきしませながら歩いた。その音が、やけに大きく聞こえた。
その夜、ノビはノートにこう書いた──
おばあさんがくれた汁物は、しょっぱかった。でもあの夜、あれより温かいものはなかったと思う。