怪獣たちの足元で、明日を考える。
第18話 Kindness

一人で立った夜 ―― ノビの山村防衛記

Gō Shiomi Gō Shiomi
一人で立った夜 ―― ノビの山村防衛記

あの喧嘩から1週間が経っていた。ガリョウは北の海岸線に行ったきり帰ってこない。クロワは東の研究拠点にこもっている。2匹がいない縄張りは、驚くほど静かだった。

僕は一人で島の見回りを続けていた。以前はガリョウの後ろを歩くだけでよかった。クロワの指示に従うだけでよかった。今は自分で判断して、自分で歩かなければならない。

3日目に気づいた。僕はいつも2匹の真ん中にいた。ガリョウの行動力とクロワの分析力に挟まれて、自分では何も決めなくてよかった。でも今、その居場所がない。

一人で過ごす7日目の夜。山間の小さな村の方角に、黒い煙が上がった。


前にも後ろにも誰もいない

暗い山道を走った。いつもならガリョウが先に駆けつけ、クロワが高台から指示を出す。僕はその後ろでノートを取る。でも今、前にも後ろにも誰もいない。

村に着くと、山の上から泥水がゆっくり流れ下りていた。地盤が緩んでいる。このまま崩れれば村は土砂に埋まる。さらに村の東側に小型の敵が1体、人家を嗅ぎ回っている。

土砂崩れと敵。2つ同時。僕一人で。

🦕 ノビ

無理だ。絶対に無理だ。僕はガリョウじゃない。クロワでもない。戦えないし、完璧な作戦も立てられない。

足が震えた。逃げたかった。でも、村の家々に明かりが灯っていた。子どもの泣き声が聞こえた。

🦕 ノビ

あの明かりの中に、誰かの夜がある。僕が逃げたら、あの明かりが消える。

ガリョウの言葉が頭を過ぎった。「人が多い方に走る」。その事実が、震えたまま前に踏み出す力をくれた。

夜の山村で煙を見つめるノビの小さな背中
前にも後ろにも、誰もいない夜。

ノートが教えてくれたこと

僕はノートを開いた。何ヶ月もかけて書き溜めた、2匹の教えが全部ここにあった。「足が止まるなら、手で進め」――ガリョウの言葉。「パニックは構造で止める。まず全体を見ろ。次に分解しろ。一つずつ潰せ」――クロワの言葉。

まず構造を考えた。問題は2つ。同時にはできない。でも順番をつけることはできる。村の北側の古い用水路を開放すれば、水の流れを変えて土砂の方向をずらせるかもしれない。敵には地形を使う。東側の急斜面に誘導して落とす。力で勝てないなら、この土地の力を借りる。

🦕 ノビ

……やるしかない。完璧じゃなくていい。全員生きて朝を迎えればいい。

🦕 ノビ

ガリョウさんなら走る。クロワさんなら設計する。僕は……僕のやり方で、動く。

村人を起こして回った。声が裏返っていた。格好悪かった。それでも村人たちは動いてくれた。用水路の錆びた水門を体ごとぶつけて開けた。泥の流れが方向を変え、村の手前でほんの少しだけ逸れた。畑が2枚埋まった。家は無事だった。

次は敵。松明を作り、走り回って注意を引いた。斜面の際まで誘い込んで足元の枯れ木を蹴り崩した。敵が足を滑らせ、斜面を転がり落ちていった。

松明を持って走り回るノビと斜面を転がり落ちる敵
力で勝てないなら、地形に勝ってもらう。

朝日と汁物

全員、生きていた。村人も、僕も。

座り込んだ。全身が泥だらけで、腕の鱗を焦がしていて、爪は欠けて、あちこち擦り傷だらけだった。英雄にはほど遠い。でも朝日が山の稜線から顔を出したとき、おばあさんが温かい汁物を持ってきてくれた。「ありがとうね」と言われた。それだけで、涙が堪えきれなかった。

🦕 ノビ

ガリョウさんの強さがなくても、クロワさんの頭脳がなくても、僕にできることがあった。小さくて、不格好で、ギリギリだったけど。……僕は、一人でも立てた。

ガリョウの「足が止まるなら手で進め」が僕の足を動かし、クロワの「構造で考えろ」が僕の頭を動かした。それでも、村人を起こして回ったのは僕の声だ。水門を開けたのは僕の手だ。

ノートの文字が、本当に必要な夜に、僕を立たせてくれた。

🦕 ノビ

ガリョウさんとクロワさんに早く会いたい。今度は、胸を張って「ただいま」と言える気がする。

泥だらけの足で、宿の板間をきしませながら歩いた。その音が、やけに大きく聞こえた。

朝日の中、泥だらけのノビに汁物を渡すおばあさん
小さな体で、大きな決断を下した夜。

その夜、ノビはノートにこう書いた──

おばあさんがくれた汁物は、しょっぱかった。でもあの夜、あれより温かいものはなかったと思う。

自立 · 決断 · 成長

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