怪獣たちの足元で、明日を考える。
第23話 Strength

傷痕の声 ―― ガリョウが強い理由

Gō Shiomi Gō Shiomi
傷痕の声 ―― ガリョウが強い理由

焚き火の夜だった。

北の山脈を越えた先にある岩棚の台地。風がなく、星が近い。クロワは地図を広げて明日のルートを組み、僕は岩に腰かけて今日の記録を書いていた。ガリョウは火のそばに座って背中を僕たちに向けている。いつものことだ。群れの中にいるのに、どこか一人でいるような座り方。

そのとき、炎の光がガリョウの背中を照らした。


傷痕の光景

背中の中央を、肩甲骨から腰まで、三本の深い溝が走っている。鱗が生え直していない。何年、何十年分の時間が、あの溝に刻まれている。炎が揺れるたびに、傷痕自体が呼吸しているように見えた。

🐉 クロワ

聞かないほうがいいかもしれない。

クロワは知っている。その声でわかった。あの傷の理由を、ずっと前から知っていて、ずっと黙っていた。

焚き火の光に照らされたガリョウの背中の傷痕
傷痕は、語らない過去の声だった。

五匹の仲間

焚き火の薪が燃え尽きかけた頃、ガリョウが口を開いた。火を見つめたまま、独り言のように。

🦖 ガリョウ

昔、仲間がいた。

5匹の仲間。ガリョウが若い頃、一緒に旅をした群れだ。毎朝一緒にスクワットをし、飯を分け合い、焚き火を囲んで明日の話をした。全員がガリョウを信頼していた。ガリョウもまた、自分が前に出れば誰も失わないと思っていた。

南の火山帯で、十数体の敵に遭遇した。逃げる選択肢もあった。でもガリョウは前に出た。仲間を背中に庇い、一歩も退かなかった。

背中に三本の爪を受けたのはそのときだ。仲間を庇って敵に背を向けた。前を向いていた証拠が、背中に刻まれた。

🦖 ガリョウ

俺は生き残った。一番強かったから。……強かったから、生き残った。それだけだ。

「それだけだ」と言った声が、かすかに割れた。あの鉄壁の心に、まだ治っていない傷があるということだ。

焚き火の炎を見つめるガリョウの横顔
強さの根は、最も深い後悔の場所に伸びていた。

鍛える理由

🦖 ガリョウ

弱さは罪じゃない。弱いまま戦場に立つのが罪だ。だから俺は鍛える。自分を。周りを。もう二度と、「足りなかった」とは言わせない。

全部がつながった。なぜあんなに厳しいのか。なぜ毎朝スクワットをするのか。なぜ僕に「走れ」と怒鳴るのか。あの叱責の全部が、失った仲間の場所から来ていた。

🐉 クロワ

私がガリョウと組んでいる理由が、少しわかったか。

🦕 ノビ

……はい。

🐉 クロワ

ガリョウの強さは、失った分だけ重い。それを知って、なお隣に立てるかどうかだ。

クロワはずっと前から知っていた。知った上で、隣に立ち続けていた。ガリョウが二度と「足りなかった」と言わなくて済むように、クロワの頭脳がガリョウの拳を補う。それがこの群れの構造だった。

僕はノートを開いた。手が震えていた。でも書いた。「ガリョウさんが強い理由がわかった。あの傷痕は、勲章じゃない。もう届かない仲間への、終わらない謝罪だ。だからガリョウさんは鍛え続ける。」

書きながら涙が落ちた。ガリョウは何も言わなかった。泣くなとも、気にするなとも。ただ黙って、僕が泣くのを許してくれた。あの沈黙は、優しさだった。

しばらくして、ガリョウが薪を一本、火に放り込んだ。炎が跳ね上がり、背中の三本の溝がくっきりと浮かび上がった。そしてまた、闇に沈んだ。

暗闇の中、焚き火に薪を放り込むガリョウの手
炎が跳ねるたび、傷痕が一瞬だけ息をした。

その夜、ノビはノートにこう書いた──

ガリョウさんが「走れ」と怒鳴るとき、あの声はたぶん、僕じゃなくて、もういない五匹に向かっている。

過去 · 喪失 · 理解

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