怪獣たちの足元で、明日を考える。
第26話 Strength

最強の敵 ―― 独りでは届かない拳

Gō Shiomi Gō Shiomi
最強の敵 ―― 独りでは届かない拳

空が割れたように見えた。比喩じゃない。

地平線の向こうから現れたそれは、空そのものを黒く塗り潰しながらこちらに向かってきた。今まで戦った相手とは次元が違う。大きさも、速さも、そしてなにより――知性が違った。クロワと同じ計算する目を持ち、ガリョウと同じ体を持っている。力と知性を、あの一体が兼ね備えていた。

ガリョウが真っ先に飛び出した。いつもと同じだ。だけど、いつもと同じ結果にはならなかった。

僕はノートを握りしめたまま立ち尽くしていた。足が震えている。でも、逃げなかった。


崩れる足場

ガリョウの拳が当たった。確かに当たった。だがその拳は、相手の掌に受け止められていた。今まで一度も止められたことのない拳が、止まった。

次の瞬間、ガリョウの体が地面に叩きつけられた。アスファルトに亀裂が走り、クレーターができた。あのガリョウが、地面から這い上がっている。

🐉 クロワ

パターンを読まれている。Gの突進タイミング、私の迂回ルート、全て先読みされている。こいつは……学習している。

クロワの包囲陣も展開する前に崩された。クロワが吹き飛ばされ、壁に背中から突っ込んだ。右足を引きずっている。

僕は2匹が同時に地面に転がるのを、初めて見た。今まで、どちらか一方が倒れても、もう一方が立っていた。それが、2匹同時に倒れた。

🦕 ノビ

ガリョウさんの左腕が動いていない。クロワさんも足を引きずっている。……どうすればいい。どうすれば。

ノートを握る手が震えた。でも、ペンは離さなかった。震える字で、敵の動きを書き留めた。攻撃の間隔。旋回のタイミング。左後方に、周期的な死角がある。約9秒ごと。

巨大な影に立ち向かう3匹
全てが試される瞬間が、ついに来た。

独りでは足りない

二度目の突撃も止められた。カウンターでガリョウの体が瓦礫の山に突っ込んだ。煙が晴れたとき、ガリョウが片膝をついていた。初めて見る姿だった。

ガリョウの唇が動いた。低い声だった。でも、はっきり聞こえた。

🦖 ガリョウ

……俺一人じゃ足りない。

その言葉を聞いたとき、世界が止まったように感じた。砂漠を超え、傷だらけの過去を見せてきたこの怪獣が、初めて自分の限界を口にした。あの一言は敗北の言葉じゃなかった。信頼の言葉だった。

🦖 ガリョウ

K、設計しろ。ノビ、走れ。俺が時間を作る。

🐉 クロワ

……了解した。ノビ、東の建物群の影を使え。相手の死角は左後方、9秒ごとに生まれる。Gが囮になる。私が本体の構造弱点を突く。お前が合図を出せ。

9秒。ノートに書き留めた数字と一致していた。僕が観察した敵の旋回パターン。クロワが計算した攻撃の隙間。同じ答えに、別々のルートでたどり着いていた。

🦕 ノビ

9秒。わかりました。僕が、繋ぎます。

足が震えていた。でも、走れる。1000回のスクワットで鍛えた足が、瓦礫の上でも沈まない。

瓦礫の中で片膝をつくガリョウと、駆け寄るノビとクロワ
「俺一人じゃ足りない」――その一言が、全てを変えた。

9秒に詰めた全て

走った。瓦礫を跳び越え、粉塵の中を突っ切った。足の裏が瓦礫で切れたが、止まらなかった。

ガリョウが吠えた。敵の注意がガリョウに向いた。1秒。クロワが左から回り込む。3秒。僕は東の建物の影を走りながら、敵の旋回を数えた。5秒。6秒。7秒。

敵の視線が左後方から外れた。

「今!」

僕の声が粉塵を裂いた。8秒目。ガリョウの残った右腕が唸り、クロワの計算が噛み合い、僕の声が2匹を繋いだ。9秒に、3匹の全てを詰め込んだ。

敵が、初めてよろめいた。

🦖 ガリョウ

……まだだ。

ガリョウが立ち上がった。動かないはずの左腕を振り上げた。クロワが同時に反対側から突っ込んだ。2匹の攻撃が、同じ瞬間に同じ点に集中した。

そして――敵が退いた。倒したわけじゃない。ただ、退かせた。完全な勝利じゃない。でも、全員が立っている。

3匹で地面に崩れ落ちた。空は、まだ暗かった。でも割れてはいなかった。

敵が去った後、地面に倒れ込む3匹
倒しきれなかった。でも、退かせた。
🦖 ガリョウ

……悪くねぇ連携だった。

ガリョウが血だらけの顔で笑った。クロワも、かすかに口角を上げた。僕は泣きながら笑っていた。怖かった。でも走った。走れた。

ノートを開こうとしたが、手が震えて字が書けなかった。だから、この瞬間だけは体で覚えることにした。アスファルトの冷たさと、2匹の体温と、遠くで聞こえる住民たちの声。全部、体に刻んだ。


その夜、ノビはノートにこう書いた──

ガリョウさんが「俺一人じゃ足りない」と言った。あの一言で、僕の足が動いた。震えたまま走れるということを、今日知った。

危機 · 限界 · 団結

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