ロングビーチ・コンベンションセンターに入った瞬間、ノビは立ち止まった。
タタミが見えた。数えた。10面、15面、20面——数えるのをやめた。広すぎた。至る所で誰かが動いていた。アップをする選手、テーピングをするコーチ、カメラを構えるスタッフ。言葉が8種類以上飛び交っていた。
……でかい。
参加者2,300人。出場国64カ国。2万平米の会場面積。タタミは24面同時進行。
クロワは数字で答えた。数字でしか答えられないのか、数字が一番正確だと知っているのか、ノビにはまだわからない。
大きいか。
ガリョウが来た。
……はい。
世界は広い。それがいい。
ガリョウはそれだけ言って、ウォームアップエリアの方へ歩いていった。
登録をすませて、スケジュール表を受け取った。自分の試合は翌日の午前10時だった。
会場を出て、ホテルに戻る途中、ノビは海を見た。太平洋がそこにあった。日本でも同じ海を見ていたはずなのに、こちら側から見るとまったく違うものに見えた。
向こう側に日本があるんですよね。
直線距離で約9,000キロ。飛行機で10時間。太平洋の正反対側。
遠くまで来た。
ガリョウが静かに言った。責めているわけでも、ほめているわけでもなかった。ただ、事実として言った。
遠くまで来た。
ノビはその言葉を反芻した。何かを確かめるように。
夜、スケジュール表をもう一度見た。午前10時。相手の名前。国旗のマーク。
どんな選手かは知らない。動画を探したが見つからなかった。クロワに聞いた。
データなし。国際大会での実績は公開されていない。未知の相手。
それって……不安じゃないですか。
データがないことは、相手にとっても同じ。
ノビは少し黙って、それから笑った。
明日、自分の柔術をやればいい。それだけだ。
ガリョウはライトを消した。
目を閉じた。波の音が遠くから聞こえた。
世界は広かった。それがよかった、とノビは思った。日本にいるままでは、この広さを知らなかった。
広さを知ることが、最初の一勝だった。